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【世話人情報】元裁判官が証言する日本の裁判所と裁判官の暗黒の実態(3/3)

(2/3の続き)

仲間の助けで逮捕されずに済んだ

 だけど、禍福はあざなえる縄のごとしという諺もありますが、人間何がプラスになるか分からないもので、高松で高裁の刑事の裁判官で辞 めたとした ら、知り合いとしてはヤーサンぐらいしかできなかったと思うのです。

家裁にいたばかりに、家裁は調停委員というのが県下に500人ぐらいおります。それか ら、保護司さんというのも500人ぐらいおります。合計で1000人ぐらいの人。そんな人がみんな、生田さんが辞めて大変らしいから、事件があったら持っ ていってあげようと、お互いに呼びかけをしてくれた。1000人といったら大きいですよ。だから、私は弁護士を始めた途端に、もう事件は ワンサカときて、 当時は事件で困るということはなかった。

 その代わり他の弁護士からのやっかみなどもありました。それから、あるタウン誌の社長が香川県警の一部とヤーサンとの癒着を暴こうとし て、3回も銃撃さ れて命をなくす土壇場まで行った。

この人の依頼を受け、癒着を暴こうとするような事件も、現在もやっています。そういうのをやろうとしました。

 そのために、まず弁護士会からのやっかみ等で、弁護士の懲戒ということをやられて、業務停止2ヵ月というのを受けたわけです。私として はどう考えても、 そういうことが違法な業務になるという気はない。

本人のためを思ってやってあげたのが、何で違法になるのかなと思って、日弁連に香川県弁護士会の処置は違 法であると申し立てたら、すぐに日弁連は、もう1年以内ぐらいに取り消してくれた。

それで助かったというのもあります。

 それから、県警とヤーサンとの癒着を暴こうとしたために、その癒着しているグループの警察官から逮捕されそうになった。ところが、たぶ ん警察官でないと 知らないと思うので警察官だと思うのですが、私が「逮捕されそうになっている、今日明日中に逮捕されますよ」という情報を、家裁の調査官に流してくれて、 家裁の調査官から私に、「生田さん、逮捕されるよ」という情報が入った。

 私が愛媛の教科書裁判なんかで知り合った、世界的なネットワークを持っている人に、「俺、逮捕されるぞ」という情報を流したら、その ネットワークで、み んながメールとかで、香川県の丸亀署に抗議をしてくれた。

それも韓国からは3000名ぐらい、中国からも1000人近く、アメリカからも数百人というメー ル。それから、日本全体もメ-ルを送ってくれて、そんなので逮捕されずにすんだというのもあります。

様々な経験で見えてきたこと

 いいこともあれば、やっかみとかで狙われたというのも結構あります。弁護士には国税の調査なんかはほとんど入らないというふうに私は 聞いていたのですが、私の場合は3年に1回ぐらい調査に入られて、もう5回ぐらい国税の調査に入られています。

 それから、車で四国とか中国地方とかも走り回っているのですが、私が高速道路を走っていると、高速道路の入り口からパーッとくる車がい ると思ったら、私 の後ろにピタッとつかれる。

これが覆面パトで、スピード違反で挙げられるということはもうしょっちゅうです。最近は運転するに当たっても、前と後ろを平均 するぐらいに、後ろも注意しながら走っている。

それなら、スピードを落としたらいいじゃないかというかもしれんですが、スピードを落としたら私の生きがいがない(笑)。そういう不利 益というのは、もういくらでもあります。

 私としては、人間のすることは何でもやりたいという気があって、一応学校の先生もした、市役所の職員もした、裁判官もした、弁護士もし た。それで、いまから10年ほど前に、香川県の県知事選というのがあって、それも立候補してみました。

 初めは人を担ぎ上げる役をやったのですが、誰も御輿に乗ってくれなくて、自分が飛び乗っちゃったという事件です(笑)。選挙で勝つため にはどういうこと をしなきゃならんかというのを、嫌というほど味わいました。

要するに、自分と同じ考えの人が5人いれば勝てると言われているんです、選挙は。ところが、こ の5人というのがなかなか集まりません。それと、自分の味方だと思っている人が、必ずしも味方ではないということまで分かるんですよ。

 香川県の場合、高松市が大票田ですから、高松市ともう一つの丸亀市というところぐらいをグルグル回って運動すればいいのですが、自分の事務局みたいな人 は、いや、地方へ行きましょうよ、地方へ行きましょうよって高松市とか大都市にあまり行かないんですよ。おかしいなと思った。どう見ても自分の味方じゃな い。自分のために選挙事務局になってくれているんじゃないということが分かってきた。そういう、いろいろな裏があります。

 それから、私はPTAの会長をやったりして、PTA関係で非常に親しい、私が会長の時に副会長で、PTAの関係ではぺコペコしている人 が、選挙の関係で 頼みに行くと、ふんぞり返って、これは同一人物かなというぐらいの変わり方にびっくりすることもあります。それも男だけじゃなしに、女性でもそういう変わ り方をする人がいる。こういうことで、いろいろな経験をさせてもらいました。

3日やったら辞められない!?

 元の裁判官の話に戻りますと、最近は女性の裁判官が3割ぐらいになってきていると思いますが、女性の裁判官というのは、いい面も悪い 面もあるので す。だいたい勘でやる人が多いんですよね。これはもう初めから、原告が勝ちだとか被告が勝ちだとか、決め打ちでやられてしまう。うまいこと、自分がやって いるほうに加担してくれたときは儲けもんですが、反対側になった場合はもう何をやってもだめ。

そういう決め打ちの人が女性には非常に多い。

 それで、裁判官の仕事というのは、多数の事件で大変だろうとお思いかもしれませんが、それはやり方いかんなんですよね。民事事件なんか では、何が真実な のかということを極めた上で、判決をそれに沿うように書きたいと思って、いろいろな状況証拠なんかも精査して、原告が勝ちだ、被告が勝ちだと決めようと思 うと、非常な努力が要るのです。

 簡単にやろうと思えば、原告が言っている筋で書いたほうが書きやすいのか、被告が言っている筋で書いたほうが書きやすいのか、書きやす い筋で判決をサーッと書いてしまう。それが上手なやり方だと言われていて、最近はその手の判決が非常に多いのです。

 だから、何が真実かというので必死に悩みますと、これはもう行き着く先は、ひどい場合は自殺になります。私もよく知っている裁判官で、 私の期の上下で5 人ほど自殺している人がいます。

この人たちはみんな極めてまじめな人でした。だから、もう行き詰っちゃうんです。ところが、出世するような人はそんなこと で悩まずに、どっちの筋で書いたほうが簡単かというので、ザーッと書いていくから、悩まずにすむ。こういうことなんです。

 高裁でもいろいろ記録をきめ細かに精査して、1審の判決が間違いかどうかを正そうとしたら、非常な努力が要ります。だから、高裁の刑事 の裁判官でも、私 の知っている人で自殺した人もいます。

ところが、高裁というのは、もう1審が正しいんだという前提の下に書こうと思えば、そんな記録をあまり丁寧に見る必 要もないわけなんです。

 1審の判決があります。それから、この1審の判決はここが悪いという控訴趣意書があります。それを見比べて、1審のここが悪いと控訴人 は言うけれども、 控訴人の控訴趣意書は1審判決を調べれば、不当であることは明らかであるとかいう理由で、パッと書けるわけですから、何ぼ大部の記録があったって、そんな のあまり丁寧に見ないでもやれる。それぐらい手抜きをしようと思えば、簡単に手抜きができる。

 それから1審は1審で、何ぼ言っていても、被告の言うこの点は措信できないというので、ひと蹴りで終わりですから、どういう理由で措信 できないかということまで、言う必要もないわけじゃないんですが、現在ではもうそういう判決ですから、極めて簡単にやれる。

 だから大阪高裁のときに、囲碁で有名な木谷實一門というのがあって、そこの息子さんで木谷明さんという優秀な裁判官がいて、現在は大学 の先生ですが、そ の木谷さんが、生田君、1審判決どおりの高裁判決を書いたら、こんな楽な仕事はないから、乞食といっしよで3日やったらやめられなくなるぞと言う。

 だから、そんな裁判官にはならんように注意せないかんというのを、散々教えられたのですが、やり方いかんによっては極めて簡単なんで す。裁判官の仕事が 大変だ、大変だとか言われていますが、それはもうほんとにまじめに、何が真実かというのを追求しようという姿勢で臨めば大変ですが、そうでない手抜きをや るかぎりは極めて楽で、乞食といっしょで3日やったらやめられんという楽な仕事でもあるわけです。

そういう仕事が裁判官の仕事で、いろいろな汚いことをし ている人もたくさんいて、出世している人もいます。

裁判は主権実現の手段

 あと少し日本の裁判の現状を見てみます。裁判の本質は何か。機能としては紛争の解決。これが民事の裁判あるいは刑事の裁判。もう一つ は行政権力の 統制ということで、これが行政裁判。それから、憲法の適合性を判断するのが違憲訴訟なわけです。この三つぐらいあるのですが、このいずれもその本質はとい うと主権者の主権実現の手段なんです。主権を実現しようと思って裁判をする。

 特に行政訴訟なんかを見てもらったら分かりますように、公務員の不法行為、これに対して行政訴訟を起こしていくというのは、まさに主権 の実現です。それ から教科書の採択がおかしい、検定がおかしいというので、教科書の検定や採択に対して異議を求めていくというのも主権の実現です。

 それから、法律が憲法違反であると、あるいは行政措置が憲法違反であるということを求めていくのも(安保条約が憲法違反であるというよ うなことが典型で すが)主権の実現なわけです。

だから、選挙権の行使とか、あるいは直接的な表現の自由の座り込みとか、デモとか、そういうことと同じような主権の実現であ るわけですが、この主権の実現ということを、日本の為政者は非常に嫌うわけなんです。

 諸外国でもほとんどの先進国であります陪審制とか、そういうのも採用しない。日本では戦前、陪審制が昭和3年から昭和18年までなされ ていまして、戦争が終わるまで停止するという法律があるのです。

それによって停止されたままなのです。

GHQにうまくだまされた日本人

 それから第二次世界大戦後、憲法改正をした国では、ほとんど憲法裁判所という裁判所を持っています。ところが日本は、アメリカ型の司 法裁判所の司法判断の中で、憲法違反の裁判もするということになっています。

それがどう違うかというと、憲法裁判所の場合は事件にならなくてもこれは憲法違反だという 訴えを起こせるから、主権の行使としては一番直接的なわけです。日本の場合は憲法違反があって、それで損害を受けたという事件性がなければ、その元になっ ている法律の憲法違反は言えないのです。

 典型的なのが、警察予備隊が憲法違反だという裁判を起こされたときに、その憲法違反によってどういう損害を受けたのか、その損害が明ら かでないから、事件性を備えていないからだめですよというので、さっさと却下になったのがあります。戦後、違憲判断ができるようになったというので大いにもてはやされまし たが、それは戦後に憲法改正をやった国は、ほとんど憲法裁判所を設けているからです。

オーストリア、イタリア、ドイツ、トルコ、ユーゴスラビア、フラン ス、ポルトガル、スペイン、ギリシャ、ベルギー、韓国もそうです。これはGHQにうまく日本人はだまされているんだと、私は思います。

 それから行政事件では、先にも言いましたように、ドイツでは50万件、日本では1800件、500分の1です。それからアメリカなんか だったら、訴えを 起こすと、相手は手持ち証拠を全部開示しなきゃならんというのがあります。

日本ではそういうことはありませんから、行政訴訟を起こしても、こちら側には証 拠がありませんから、ほとんど負けです。それが500分の1の差です。

 それからドイツでは、公務員はメモの義務というのがあって、応対した市民との会話等を全部きめ細かに書く義務がある。そのメモを訴訟が 起こされたらすぐ提出する義務があります。

日本ではそういうことはありません。

 それからドイツではノートの切れ端に、この公務員はこういう違法行為をしている、この行政行為はこういう違法であるという走り書きのメ モを裁判所に送り 届けても、それが訴えとみなされますが、日本ではよほどきちんと書いた訴状でも、あんたは原告適格がありません、あるいは訴えの利益がありませんとかで、 約20%は門前払いではねられる。

 最終的に勝つのは、市民の約10%。そんなのだから、もうみんな行政訴訟を起こしません。そのために、主権の行使が非常にマイナスに なっている。それから民事裁判でも、日本は裁判が少ないのが世界的に有名で、だいたい裁判官数でもヨーロッパの10分の1。

10分の1の人数でやっているわけです。その上、ヒラメで最高裁の統制を受けていますから、どういう結論になるかは、もう目に見えていま す。

 そういうことで、民事事件というのは公的な法的なサービスであるべきなのに、日本ではこれは裁判という権力作用であると、こういうふう なとらえ方をして いて、民事裁判をできるだけ少なくしようとしている。

それで、民事裁判が日本では非常に少ないということを外国の研究者が日本の大学の雑誌なんかに書いて いますが、日本の学者はそういうことは書かない。

公文書開示で日本を変える

 それだけじゃなしに、裁判所の予算、司法予算というのは、去年ぐらいですか、国の予算が84兆円というときで、裁判所の予算は 3276億円、0.39%。だから、三権分立だといって、3分の1あるかといったら大間違いで、0.4%の予算でやっているわけです。

 それから、お金がなくて、裁判を起こしたくても起こせないという人のために、法律扶助というのがあるのですが、日本ではイギリスの90 分の1。イギリス の年間法律扶助の事業費は1610億円、そのうち国家予算が1146億円ですが、日本の事業費は18億円、そのうち国家負担は約4億円というわけで、もう 全然話にならんほど、そういう扶助もしていません。

 それから、何よりもこういうおかしなことに対して、国連に個人通報制度というのがあります。国内で最高裁まで行って必死に努力したけれ ども、国のこういうおかしな制度で困っていますという、個人通報制度というのがあるのですが、日本は個人通報制度を批准していませんので、国連に訴えることもできません。

 個人通報制度で変わったのがイギリスだと言われています。イギリスでも国内の制度はよくなかったのですが、国連に訴えて、個人通報で国 連から、こういう ところを改めろという指示を受けて、大分よくなった。

ところが、日本ではそういうこともできない。民主党になって、法務大臣がやってくれるかと思っていま したが、そういう個人通報制度についても、全然何もやってくれません。

 そういうのが日本の裁判の現状で、これをはね返すためにはどうしていかなくちゃならんかということを考えなくてはならんのです。まず公 文書公開というこ とで、私がやっていますように、最高裁に対して最高裁の裁判官統制、ウラ金について公文書公開を求める。開示しなかった場合には、開示を求める裁判をする。

 それだけじゃなしに、公文書公開法自体がいま見直しの時期にきている。何とか見直していって、不開示を減らそうとか、国民の知る権利を 基盤に公文書公開 があるんだという基本姿勢をはっきりさせようとか、内閣総理大臣が最終的にほかの長が不開示にしたものに開示を命ずることができる制度にしようとか、いろ いろ考えられていますから、大分変わってくるんじゃないか。そういう点があります。

司法の後進性と国力低下

 それだけじゃなしに日本国民は、日本の主権者は人と違うことを恐れる、人と違うことを一切やらないというので有名なのですが、こうい う態度では段 々とやはり生き延びていけなくなってきている。

日本の1人当たりのGDPは2000年で世界3位だったのが、2010年では27位まで落ちています。それ からIMD〔国際経営開発研究所〕の国際競争力順位というのも、90年では1位だったのが、2008年には22位に落ちてきている。

 だから、国力というのは最近、極端に落ちてきています。それと国民の主権の行使が不自由であるということと、私は無関係ではないと思い ます。こういうことが、やはり国力の低下で明らかに現れてきているわけなので、恐らく今後は改められるであろうと思います。

 それでアメリカの政治学者でもあり、カーター大統領の国家安全保障問題担当大統領袖佐官であったブレジンスキーという人が、世界的な政 治意識の覚醒とデ モクラシーの深化の世の中になってきたということを言っています。

日本もこれからそういう社会になってきて、デモクラシーの深化がもっともっと徹底してく るようになってきます。

 それから最近、博報堂の生活総合研究所から出た本では、世の中が態度表明社会になってきた。みんな自分の態度を表明しないと、もう生き ていけないように なってきたという状況にあります。

そういうことから、この司法のおかしさというのも、いずれみんなが気がついて、異議を出すような社会になってくるんじゃ ないか。だから、組合を弾圧するのが当然だという社会は、必ず改められます。

そういう社会にいまどんどん変わっていきつつあります。

 その一つのあり方にもなるんじゃないかと思って、私は最高裁相手に、裁判官の統制とウラ金の司法行政文書の開示を求める裁判をやってい ます。こういうこ とをやっておりますと私自身に対する圧力も、いろいろな形で受けますので、どこまでやれるか分かりませんが、本日のようなこういう会にお招きいただけると いうのも、私なりに一生懸命努力している成果を、ある程度は世の中でプラスに評価してくれるところもあるんじゃないかと、

こういうふうに考えて、本日は非 常に感謝している次第です。

 至らない話でしたが、これで時間もきましたので、一応終わらせていただきます。どうもありがとうございます。(拍手)

生田暉雄氏のプロフィール

・1970年  裁判官任官
・1987年  大阪高等裁判所判事
・1992年  退官(裁判官歴22年)
・同年、弁護士登録(香川県弁護士会所属)
・現在…裁判は主権実現の手段であるとの考えのもとに、東京、宇都宮、愛媛の教科書裁判に関与している。また、最高裁の「やらせタウ ンミーティング」違法訴訟、国民投票法違憲訴訟を提訴すべく、準備中

(編集者注・これは生田氏の講演内容をまとめたものです。JR東日本労組のご協力に感謝します)

(終わり)

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